- Question
- どうすれば、デザインの力でビジネスを加速させる社内組織をつくり、より豊かな未来を実現する会社へと変革できるだろうか。
- Outcome
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パーパスデザインやアイデンティティの策定により大企業の「出島」としての存在感を強化。外部から多くのデザイナーが応募するようになり、新規事業の基盤として成長した。
巨大な通信事業者であり、日本を代表する大企業のひとつ、NTTコミュニケーションズは従来、デザイナーという職種を採用してきませんでした。そんな中、研究開発組織内のチームとして発足したデザインチームを社内組織として確立させ、外から優秀な人材を集めるというプロジェクトが発足します。
キックオフのミーティングでは、メンバーの現状を知るためセッションを実施。
そのうちのひとつ「TODAY/ FUTURE」セッションでは、自分たちがチームをどう捉えているのか、将来、どんなチームになっていたいかを書き出して行きます。
まずわかったのは、チームの強み。巨大企業の中にあるにも関わらず、役職を気にせず意見を言い合える風通しの良いチームであることです。そして次に浮かび上がったのは、チームの理想像。社内外に成果を示せる存在であること、です。そこから、とるべきアプローチをふたつに絞りました。ひとつはアイデンティティを確立し、明確な目標を立てて、社内外に宣言すること。そしてもうひとつは、早期にわかりやすいアウトプットが出せるような体制をつくり、チームの軸となるような誇りを高めること、です。
組織をつくるにあたっての第一歩として、組織の覚えやすい「愛称」を考えます。企業名を冠するのではなく、独立した印象。機能的ではなくエモーショナル。チームのらしさを表すふたつの条件を満たす名前として「KOEL」という名前に決まりました。物理的な距離や常識を「超える」。そんなコミュニケーションを創造するチームであるという意味がこめられています。
チーム名をつけることには、いくつかの意義があります。ひとつは、社内外に対して独立した「出島」としてのイメージを与えること。2つめは、「変革」の旗印として意志を表明するということ。3つめは、名称から「ビジョン」が伝達できること、です。
愛称とセットで、アイデンティティにも意思を込めます。ロゴの「O」と「E」の間に切り取った直線の角度は、人間が最も遠くまで物を飛ばせる「40.89度」。距離や常識を超えるというイメージを強調しています。
アイデンティティの次には、チームのミッション、ビジョン、バリューを定めます。目標を定めるだけでなく社内外に公表することで、KOELの認知をあげられる。またそれによりメンバーの「誇り」を醸成できると考えました。
議論の結果生まれたミッションは「デザイン×コミュニケーションで社会の創造力を解放する」。ビジョンは「人と企業に愛される社会インフラをつくる」。バリューは、「問う」「創る」「動かす」の3つです。
また、組織内にカルチャーを浸透させるための「リチュアル」(儀式や習慣)も議論しました。役職ごとの役割や掌握範囲を決め、スキル例、アクション例を洗い出したり、外部からデザイナーを採用するための方針や面接のプロセスまで検討します。
チームの一体感の醸成という点で特に効果的だったのは、KOELのLP(ランディングページ)を立ち上げ、そこにメンバー全員の写真とプロフィールを載せたことでした。それぞれ「UIデザイナー」「デザインリサーチャー」など、デザイナーとしての役割と共に、顔と名前を出したことで、一人ひとりの覚悟と帰属意識が強まりました。
こうしたした下準備と重ねた上で人材の募集を開始したところ、予想以上のデザイナーの応募があり、採用も決まっていきました。外からのポジティブな反応は、メンバーの誇りを高めることにも貢献し、新組織としての良いサイクルを生み出すことができました。
自分たちのチームに名前をつけたり、ロゴデザインのプロセスに加わったりすることで、デザインプロセスの特徴である、つくりながら考える仕事の進め方を体感したことも、デザイン組織としてのアイデンティティの強化に繋がったようです。
- Produce, Web Design : KESIKI
- Photographer : 宇佐美雅浩
学び
「メンバーの日々の会話の中に、『問う』『創る』『動かす』がやたらと出てくるんです。また、チームを意識しながらも自発的な行動が増えました。部活動が発足したり、相互理解のためのインタビューをしたり。“KOEL”としての意識がみんなの中に芽生えているのを感じます」。KOELの前進組織を立ち上げた、UXデザイナーの金智之さんからはこのようなフィードバックもありました。自分たちのありたい姿をまず宣言してしまう、ということの効果を実感したプロジェクトです。