人にやさしい政策

経済産業省

行政×デザインのチームづくりとアクションプラン提言

政策は、使う人のためのもの。しかし実際には、使い手である市民と直接対話する機会が少なく、課題の発掘が難しい。そんなジレンマをデザインアプローチで解決すべく、熱量ある省庁の有志メンバーによるチームを結成しました。
「市民が合わせる」への違和感

日本の政策は、マクロな視点で描かれるのが一般的。政策に関わる関係者へのヒアリングやアンケートは行われますが、実際のユーザーの声を十分に拾いきれておらず、課題の洗い出しが表層的に止まってしまうことがあるのが現状です。また、政策を実行した後、実際の反応をみながら改善していくための仕組みが不十分であるため、例え不便な部分などが出てきても、素早く改善するのが難しいことがほとんどです。

民間企業がサービスやプロダクトをつくる場合、ユーザーに寄り添うインセンティブが働きます。そうでなければ売れないからです。しかし、正当性や公平性が優先される行政サービスは、不便な部分があっても、市民側が合わせるしかない。そんな現状の政策立案や実施プロセスに対し、国家公務員の中でも課題を感じている人がいました。

「もっと人々との距離を縮め、課題解決につながる政策づくりをするにはどうすればいいか」

こんな、もやもやとした問いを持った経産省の職員の周りに、省内外の若手公務員を中心とした有志メンバーが少しずつ集結。デザインアプローチを使ったプロジェクトが始まりました。

否定するのではなく、選択肢を示す

コアメンバーの熱量を伝え、より多くの人を巻き込んでいくためにはどうすればいいか。まずは、プロジェクトに名前をつけることにしました。具体的なアクションを起こす前にチームの結束力を高め、さらにその存在を世の中に知ってもらうためです。

生まれたプロジェクト名は「JAPAN+D」です。デザインの「D」でもあり、探索(Discover)の「D」。プランAでもなくBでもないオルタナティブな「プランD」を探求したいという意味もこめられています。

次に決めたのは、ミッションとバリュー。ミッションは、「日本の行政にデザインアプローチを取り入れ、人に寄り添うやさしい政策を実現する」こと。バリューは、デザインにおいて大切な「探索」「問い」「共創」「改善」「実装」の5つのアクションにおける指針を打ち立てました。

意志を持った公務員、そしてパブリック領域に関心のあるデザイナーなど、仲間を増やしていくことも、今回のプロジェクトのゴールのひとつです。新しいアプローチにチャレンジしながらも、これまでのやり方を否定するのではなく、同じ未来を描くことから始める。そして、オルタナティブな選択肢を探索する。そうすることで、多様な人々を巻き込んでいける言葉選びを心がけました。

想いをアクションにつなげる

次に「やさしい政策づくり」に向けてのアクション。大きく4つを、実施しました。

1つめは、各国の政策づくりのリサーチ。JAPAN+Dのメンバーと行政の情報化を推進するAIS(一般社団法人 行政情報システム研究所)が中心となり、デンマークや台湾など、デザインアプローチを取り入れた政策の先進国や地域へのインタビューを実施しました。その結果をもとに、日本の政策に生かすための仮説を結晶化し、資料や発信の形に言語化、ビジュアライズしていきました。

2つめは、デザインアプローチを使った「政策立案の実践」。経済産業省の政策づくりの当事者たちを交え、実際に進行中の政策についてJAPAN+Dのメンバーとともにワークショップを行い、一緒に「問い」を立て、課題の解決方法を探りました。

3つめは「コミュニティづくり」。各省庁でデザインアプローチを用いた政策づくりに興味のある職員や、意思決定のキーパーソンなどを巻き込み、プロジェクトのキックオフともなるイベント「Japan Policy Design Summit vol.0」を開催。「デザインで変える『行政と私たちの未来』と題し、リサーチ結果や行動指針をプレゼンテーションするとともに、各省庁のキーパーソンやデザインの第一人者にご登壇いただき、日本における政策デザインのあり方についてトークセッションを行いました。このイベントではKESIKIの石川と九法も登壇。KESIKIはユーザー視点や戦略的な視点、社会におけるインパクトなど、多様な視点を交えながらプロダクトやサービスをつくっていましたが、行政の政策づくりにおいてもミクロとマクロを行き来しながら政策をデザインしていく大切さを伝えました。

4つめは、広く世に訴えかけるための「発信」。Webサイトの構築と、報告書の作成、noteでの発信をディレクションしました。「人に寄り添うやさしいデザイン」をモチーフにした、ビジュアルアイデンティティも作成。Webサイト上のモーショングラフィックなどにも発展させています。報告書では、今後のロードマップを整理。ビジョンに向けた具体的なアクションの方針をつくりました。

https://www.meti.go.jp/policy/policy_management/policy_design/Japanese/index.html

学び

キックオフイベントやnoteの発信の反応もよく、好スタートを切ることができました。要因は、なんと言ってもプロジェクトメンバーの熱量の高さ。通常の業務があるため、プロジェクトのために使える時間は平日の夜や休日のみ。にも関わらず、彼らはものすごいスピード感で議論と行動を進めていくのです。

KESIKIもその思いに突き動かされるように、どうやってその熱を広げていけるかということを考え、伴走してきました。結局、個人の思いが周りの人を動かし、熱狂は広がっていく。その積み重ねによって、世の中が少しずつ変わっていく可能性を感じています。

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