「説明に使っているグラフィックを、もっと相手に伝わりやすいデザインにしたいんです」。
それがSIIFから最初にいただいた相談でした。
SIIFは人や地域がそれぞれの幸せをかなえられる包摂的な社会を目指し、人、資金、知見などの資源がめぐる新しい循環モデルの構築に取り組む財団です。その中の活動の一つに、個人富裕層や金融機関向けのフィランソロピー(慈善活動)支援事業があります。
この事業は、個人寄付や民間財団による慈善活動の最大化を目指すものです。SIIFはこれまでも個人の関心に基づいた支援先の選定や、支援後のインパクトの可視化をしてきました。一方で、取り扱う社会課題の構造が複雑なため、課題の全体像が伝わりにくく、納得感を持って寄付をしてもらうことが難しいという課題を抱えていました。
当初の依頼のように、今使っている資料の見栄えをよくすることで、相手の理解が進む部分もあるでしょう。しかし、単純に見栄えをよくするだけで良いのか。私たちの中にそんな疑問が浮かびました。
そもそも目指すべきは、課題の全体像と自分の寄付がどの程度のインパクトをもたらすのかを理解し、寄付の決断までしてもらうことのはずです。そこで、SIIFのメンバーと議論を重ね、既存のグラフィックをリデザインするのではなく、「寄付者や投資家の社会課題に対しての理解が深まり、行動までのステップを減らすツールをデザインすること」をゴールとし、プロジェクトを開始しました。
まず、KESIKIメンバーがSIIFの取り組む社会課題を深く理解することからスタートしました。今回取り組んだのは、「子供の貧困」、「発達障害」、「シングルマザー」の三つ。課題の現状、因果関係、現在の対策と残っている課題などをデスクリサーチ中心に整理していきました。
整理する中でわかったのは、どの社会課題も複数の問題の連鎖によって引き起こされている、ということ。たとえば、「子供の貧困」は、社会保障、教育機会、親の所得、家庭環境など、それぞれの課題が絡まり合って生まれています。社会課題の全体像を理解する難しさはこの複雑さにあります。しかし、簡単に伝わることを優先して、情報を削ぎ落としてしまっては、本当に伝えるべきことが伝わりません。課題を構造化する上では、複雑さを残しながらも、わかりやすく伝わるように整理することを心がけました。
グラフィックをつくる前には、プロトタイプを作成。専門家の方やSIIFの方からのフィードバックを元に、ブラッシュアップを繰り返しました。
グラフィックに落とす上では、二つの点に留意しました。
一つ目は、感情に訴えるだけで終わらせないこと。課題の当事者に対してエンパシーを感じてもらうのはもちろん大切。しかし、その上で行動につながらなければ、課題解決は進みません。
そこで、数字をベースにした客観的な事実や、課題に対し取り組んでいる団体と具体的なアクションを紹介し、自分の投資がどのようなインパクトを生み出すのかを理解しやすくしました。
二つ目は、それぞれの社会課題に紐づく「原因」「結果」「影響」をフラットに伝えること。全体像が把握できるように、あえて特定の情報を強調することをせず、どの要素に取り組んだとしても効果があるとわかるようにしました。
今回作成したツールはすでに投資家への説明で使っていただいています。「説明が圧倒的に楽になった」、「伝えたいことをわかりやすく伝える上で、情報設計からデザインすることの重要さがわかった」という感想もいただきました。
また、SIIFの主催する寄付者や投資家向けのイベントでも資料として配布されており、当初想定した以上にSIIFの活動を広げる一助を担う結果となりました。
学び
それぞれの社会課題を構造化する上で、私たちは素人同然の理解度からのスタートでした。しかし、それゆえに投資家や寄付者と同じ目線で、情報の取捨選択や伝える手段について考えられ、外の立場から関わる意義を再認識できました。
また、知らない課題に対する理解度を深め、アクションまでつなげるコミュニケーションデザインは、KESIKIにとっても新しい挑戦。社会課題のように因果関係が複雑に絡み合っている課題をシンプルかつ齟齬なく伝えられるデザインの力を改めて感じました。このデザインの力をより一層「やさしさがめぐる経済」づくりに活かしていきたいと思います。