個性が地域の未来をつくる

長崎県壱岐市

地域共創コレクティブの立ち上げ

長崎県の離島・壱岐島。離島ならではの超高齢化社会や環境問題への課題意識を強く持って先進的な取り組みを行う自治体として注目されており、「SDGs未来都市」にも選定されています。そんな壱岐島で未来に向けた多様な挑戦をする市民を応援し、コラボレーションが生まれる新たなプロジェクトの立ち上げを、KESIKIが伴走しました。
Question
どうすれば、壱岐に住んでいる人、関わりがある人、これから関わる人が、もっと生き生きと活躍し、もっと島の未来を一緒に作っていく人が増えるだろうか?
市民主体の発信でSDGsを自分ごとに

2018年SDGs未来都市に選定された、長崎県・壱岐市。人口減少・超高齢化社会という状況に課題意識を持ち、地方創生SDGsの取り組みを積極的に進めてきました。KESIKIは、2021年に、壱岐市のSDGs推進戦略の策定を伴走。一人ひとりが自分らしく幸せに暮らし続けることができる社会を目指して、関係人口の増加や島外への発信の戦略などを提案しました。その戦略を基軸に、「対話」と「共創」を軸に、行政主体でイベントや教育プログラムなど、多様な取り組みがスタートしていました。

一方、行政主体の発信では、市民がSDGsを自分ごとに感じづらいという課題も。実際には、「SDGs」と言わずとも、すでに自主的に意義のある活動をしている人々もたくさんいます。たとえば、環境に優しい自然栽培を進める農家さんや、若い人が島へ移住するきっかけづくりをするカフェやゲストハウス…。そういった市民が主体となる発信をもっと盛り上げられないかというお題で、KESIKIとのプロジェクトが始まりました。

自分らしく活動する島の人々をつなぐ

まずは、実際にKESIKIのメンバーも島に滞在して、壱岐の理解を深めるフィールドワークへ。島の中で複数の地域を行き来しながら、島の人々と対話をする中で発見したことは、大きく3つ。

1つ目は、すでに意義のある活動をしている人は、いい意味で自由に、自分らしく活動しているということ。組織や他人に影響されずのびのびと活動している人が多く、裏を返せば、ひとつのチームとして一括りにするのは歓迎されないのではないか、という仮説が上がりました。

2つ目は、島といっても意外に広く、地域ごとや移住者と島育ちの間でもコミュニティが分断されてしまっているということ。同じ壱岐島の中で近いことに挑戦している人同士でも、地域や属性が違うことで出会っていないことも多くあるようでした。

3つ目は、島の中だけでは仕事が少ないということ。壱岐で職につくには市役所か家業を継ぐか。移住してきたフリーランスの人もいますが、島内の仕事は少なく、実際には福岡や他県から仕事を受けていることが多いとのこと。一方で、島内で活動している人が、Webサイト制作やPRなど、何か頼みたいと思ったときに頼れる人がいないという話も。島内でのマッチングができていないことで、経済的にも機会損失が起こっているのではないかと仮説立てました。

これらの気付きや仮説を基に、単純にSDGs的な取り組みを発信するのではなく、より永続的な形で市民同士がお互いにインスピレーションを与え合い、創発を生み出すようなプラットフォームを作っていくのはどうか、というアイデアが生まれました。

楽しく、長く、つづくために

そして、一番大事なこととして念頭に置いたのは、この活動を壱岐島のクリエイターが主体となって作り、じっくり地道に広げ、楽しく続けていけるようにすること。瞬発的にインパクトを出すような施策ではないため、続かなければ意味がありません。島の滞在中に、フォトグラファーやライター、デザイナーの方々と出会い対話しながら、市役所の担当者と一緒に「編集部」としてチームづくりをしていきました。

編集部チームと議論を重ねてたどり着いたのは、壱岐で未来に向けて自分らしく挑戦されている人や取り組みを発信することで、新たなコラボレーションを生み出すような「コレクティブ」というコンセプト

深い結びつきを持つ地域共同体としての「コミュニティ」ではなく、それぞれ個性や強みを持つ集合体としての「コレクティブ」。自分らしくいきいきと生きる、そのためには島全体もいきいきし続けてもらわなければ困る。壱岐の人々にとってのSDGsは、シンプルで本質的なもの。だからこそ、それぞれ自由に活動しながらも、ときに協力し合う。そんなコレクティブを作っていこうという考えに至ったのです。

コレクティブのメンバーにジョインしてもらう人々のバランスも、編集部チームの勘所が大切。できるだけ居住地域や属性が偏らないように考え、漁師や建築家、住まいは島外でも壱岐が好きな人、高校生まで、多種多様な個性や強みを持つ人々が集まってきています。

 

2023年の4月に「IKI IKI Collective」として無事リリースし、現在も編集部チームが主体となって活動は続いています。島のお祭りやイベントとコラボレーションしたり、コレクティブメンバー同士が意気投合して新たな取り組みが生まれたり、メンバーに新たな仕事が舞い込んできたり。コレクティブを中心に、壱岐の未来を主体的につくっていく人々の輪が、広がっています。

https://iki-iki-collective.jp/
  • グラフィックデザイン : 中村由布
  • インタビュー・ライティング : 田口有香
  • フォトグラファー : 髙田望
  • 編集長(発起人) : 壱岐市役所SDGs未来課 係長 中村勇貴
  • ディレクター : 壱岐市役所SDGs未来課 西本侑弥

学び

プロジェクトが発足した当初は、「壱岐らしさ」を尖ったコンセプトとして打ち出してインパクトを出さなければ、と考えていました。ただ、島の人々と対話をする中で、島としてくくるのではなく、一人ひとりの個性や自由を尊重することを何よりも優先すべきだということに気付かされました。自分らしく自由に生きる、そのために島のことも良くしたい。社会課題が凝縮されて身近に感じられる島だからこその、シンプルで健全な危機感にも、ハッとさせられました。このムーブメントが島の内外に伝播し、自然豊か、個性豊かな壱岐島が、ずっといきいきし続けることを願っています。

 

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